日本大学医学部産婦人科学系産婦人科学分野

所在地:東京都板橋区大谷口上町30-1

連絡先:03-3972-8111

FAX:03-3972-9612

研究室紹介

1. 世界初の子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)治療薬のトランレーショナルリサーチ 

~ 国立感染研、東京農大、国立医薬品衛生研究所との共同研究

世界初のCIN治療薬を開発し、本年夏から医師主導治験を行う。HPVの

癌蛋白質E7を標的にした粘膜免疫療法(Mucosal immunotherapy)である。

乳酸菌Lactobacillus casei株にHPV16E7蛋白質を表出させ、製剤化している。

E7発現乳酸菌(GLBL101c, IGMKK16E7)を内服すると、腸管に到達し、

腸管粘膜の粘膜リンパ組織(パイエル板等)に取り込まれ、リンパ組織内で

E7を認識する粘膜リンパ球が教育される。その粘膜リンパ球が、子宮頸部粘膜

をはじめとする全身の粘膜面に帰巣(ホーミング)する。粘膜病変であるCIN2-3

を攻撃することで病変が退縮する仕組みである。

すでに2つ(第I/IIa相、第IIb相)の自主臨床試験を終了し、CIN3の約80%が

退縮し、約30%が正常化した。

今春、PMDAに治験届を承認してもらい、治験がはじまる。日大板橋病院を代表

施設として、多施設(4大学)でHPV16に起因するCIN2-3患者164例を登録し

、群間並行型ランダム化二重盲検比較試験を実施することになっている。

2. iPS細胞を使った個別化医療をめざした子宮頸癌研究

子宮頸部の扁平上皮腺上皮境界(Squamo-columnar junction: SCJ)には、多能性

と自己複製能を持った組織幹細胞がある。子宮頸癌の発症においては、組織幹細胞に

HPVが感染することによって癌化して、直接的に癌幹細胞が発生する機序が考えられ

る。我々は、この理論を実験的に樹立している。

iPS細胞を用いて、ある条件下で分化させることで、SCJにある幹細胞(一般的には

リザーブ細胞と呼ばれることがある)様の細胞集団を作製することに世界で初めて

成功した(iRC細胞と名付けた)。iRC細胞にHPV16, HPV18を導入することで、

各ウイルスに起因する癌の性質(扁平上皮癌か腺癌か)などを検討している。

iPS細胞は、患者さんの末梢血20ml程度を用いることで誰からも作ることができる

ので、子宮頸癌患者さんのiPS細胞からiRC細胞を作製し、ハイリスクHPVを導入す

ることで、その患者さん特有の癌幹細胞を作製し、個別化治療につなげるための材

料とすることを考えている。

3. T-iPS細胞によるHPVを標的としたミサイル(能動)免疫療法の開発 

~ 京大iPS研究所、国立感染研との共同研究

エフェクター細胞療法の新しい開発として、HPV16のE7蛋白質を認識するT細胞の

クローニングに成功している。これは、上述のE7発現乳酸菌製剤を内服したCIN2

患者さんから抽出されたT細胞である。このT細胞からE7を認識するTCR(T細胞レ

セプター)をクローニングできる。

子宮頸癌の患者さんから採取した末梢血から、iPS技術を用いることで、T細胞に分

化した細胞を大量に獲得できる(T-iPS細胞)。T細胞に分化する過程で、HPV16E

7蛋白質を標的にできるTCRを導入すれば、E7に対する細胞傷害性T細胞が多量に作

成できる。E7を発現している腫瘍細胞を特異的に攻撃できるミサイルとなる。

これまでの子宮頸癌に対する免疫療法で、T-iPS細胞を利用した例はなく、世界初の

がん免疫療法となるかもしれない。今後、実用化に向かった研究を進めている。

4. 癌幹細胞を標的とする創薬開発(癌幹細胞の特性の探求) ~ 国立がん研究センターとの共同研究

 

癌幹細胞の特徴の1つに、足場非依存性増殖がある。Sphere(球形)という固まり

を形成しながら増殖できることが癌幹細胞の特徴である。そこで、Sphere形成細胞

(3D培養)と単層培養(2D培養)を比較することで、癌幹細胞と癌細胞の違いを検

討した。エネルギー代謝(メタボローム解析)に注目し、それぞれの特徴を調べたと

ころ、大きな違いを見た。3D培養では、TCA回路を中心としたエネルギー代謝によ

って細胞が維持されていることを掴んだ。TCA回路を断つ治療は癌幹細胞の維持を

崩壊させる可能性があり、癌幹細胞を標的とした治療薬開発につながるかもしれない。

また、癌幹細胞様細胞の抗アポトーシス作用を、ERストレス性アポトーシスの観点

から追求し、シスプラチン耐性の1つのメカニズムを解明した。

5. CINの予後予測バイオマーカー探索研究 ~ AMED研究班

CINが自然に退縮する症例と進展する症例がある。個々の症例について、将来を予測するためのシミュレーションモデルは存在しない。そのために、CIN患者は漫然と通院フォローするしかない。AMED研究班で、CIN患者のコホート集団をつくり、前向きコホート研究を行っている。

6. HPVを標的にした核酸医学の基礎的研究 ~ 東大工学部臨床医工学チームとの共同研究

HPVの癌遺伝子の発現を止めるためのアンチセンスRNAは、創薬の候補となる。これを核酸医学という。HPVは外来性の遺伝子であることから、それを阻害する核酸医学は安全性が高く、実用化が期待される。しかし、RNAは血中で不安定なために投与は難しい。そこで、高分子ナノミセルに内包したアンチセンスRNAを作製し、動物実験で抗腫瘍効果を証明した。高分子ナノミセルによるDrug-delivery system(DDS)の1つのモデルとして注目されている。

7. 新しい早産治療薬の開発~ω3脂肪酸(EPA、DHA)による早産予防 

~ 東大薬学部・理化学研究所との共同研究

ω3脂肪酸にはEPA、DHAがあり、細胞膜の二重リン脂質膜を形成している。必須脂肪酸であり経口摂取のみで獲得できる栄養素であることから、食生活によってω3脂肪酸リッチか、ω6脂肪酸(アラキドン酸)リッチかは個体差がある。ω3脂肪酸はアラキドン酸と同じ代謝酵素(LPA、COX-2等)によって代謝され、最終活性物質になる。この活性物質は、能動的な抗炎症作用をもつとともに、ω6脂肪酸の代謝産物(プロスタグランジン、ロイコトリエン)と拮抗する。このω3脂肪酸の代謝産物をマウスに投与すると早産を予防できることを見出した。

ω3脂肪酸の妊婦への投与が早産治療につながる可能性、ω3脂肪酸リッチの食生活(青魚、など)は早産予防につながる可能性がある。

代表論文

  1. Komatsu A, Igimi S, Kawana K, Optimization of human papillomavirus (HPV) type 16 E7-expressing lactobacillus-based vaccine for induction of mucosal E7-specific IFNγ-producing cells, Vaccine, 2018, in-press

  2. Sato M, Kawana K, Adachi K, Fujimoto A, Yoshida M, Nakamura H, Nishida H, Inoue T, Taguchi A, Ogishima J, Eguchi S, Yamashita A, Tomio K, Wada-Hiraike O, Oda K, Nagamatsu T, Osuga Y, Fujii T. Intracellular signaling entropy can be a biomarker for predicting the development of cervical intraepithelial neoplasia. PLOS One, 2017

  3. Iwata S, Okada K, Kawana K, on behalf of the Expert Council on Promotion of Vaccination, Consensus statement from 17 relevant Japanese academic societies on the promotion of the human papillomavirus vaccine, Vaccine, 35(18):2291-2292, 2017

  4. Sato M, Kawana K, Adachi K, Fujimoto A, Yoshida M, Nakamura H, Nishida H, Inoue T, Taguchi A, Ogishima J, Eguchi S, Yamashita A, Tomio K, Wada-Hiraike O, Oda K, Nagamatsu T, Osuga Y, Fujii T, Regeneration of cervical reserve cell-like cells from human induced pluripotent stem cells (iPSCs): A new approach to finding targets for cervical cancer stem cell treatment, Oncotarget, doi: 10.18632/oncotarget.16783, 2017

  5. Sato M, Kawana K, Adachi K, Fujimoto A, Yoshida M, Nakamura H, Nishida H, Inoue T, Taguchi A, Ogishima J, Eguchi S, Yamashita A, Tomio K, Wada-Hiraike O, Oda K, Nagamatsu T, Osuga Y , Fujii T, Targeting glutamine metabolism and focal adhesion kinase additively inhibits the mammalian target of the rapamycin pathway in spheroid cancer stem-like properties of ovarian clear cell carcinoma in vitro. Int J Oncol, 2017

  6. Fujimoto A, Kawana K, Taguchi A, Adachi K, Sato M, Nakamura H, Ogishima J, Yoshida M, Inoue T, Nishida H, Tomio K, Yamashita A, Matsumoto Y, Arimoto T, Wada-Hiraike O, Oda K, Nagamatsu T, Osuga Y, Fujii T, Inhibition of endoplasmic reticulum (ER) stress sensors sensitizes cancer stem-like cells to ER stress-mediated apoptosis, Oncotarget, 7: 51854-51864, 2016

  7. Sato M, Kawana K, Adachi K, Fujimoto A, Yoshida M, Nakamura H, Nishida H, Inoue T, Taguchi A, Takahashi J, Kojima S, Yamashita A, Tomio K, Wada-Hiraike O, Oda K, Nagamatsu T, Osuga Y, Fujii T, Spheroid cancer stem cells display reprogrammed metabolism and obtain energy by actively running the tricarboxylic acid (TCA) cycle, Oncotarget, 7: 33297-33305, 2016

  8. Nishida H, Matsumoto Y, Kawana K, Christie RJ, Naito M, Kim BS, Toh K, Min HS, Yi Y, Matsumoto Y, Kim HJ, Miyata K, Taguchi A, Tomio K, Yamashita A, Inoue T, Nakamura H, Fujimoto A, Sato M, Yoshida M, Adachi K, Arimoto T, Wada-Hiraike O, Oda K, Nagamatsu T, Nishiyama N, Kataoka K, Osuga Y, Fujii T, Systemic delivery of siRNA by actively targeted polyion complex micelles for silencing the E6 and E7 human papillomavirus oncogenes, J Controlled Release, Jun 10;231:29-37. doi: 10.1016/j.jconrel.2016.03.016., 2016

  9. Sato M, Kawana K, Fujimoto A, Yoshida M, Nakamura H, Nishida H, Inoue T, Taguchi A, Takahashi J, Adachi K, Nagasaka K, Matsumoto Y, Wada-Hiraike O, Oda K, Osuga Y, Fujii T, Clinical significance of gremlin 1 in cervical cancer and its effects on cancer stem cells maintenance, Oncol Reports, 35: 391-397, 2016

  10. Taguchi A, Nagasaka K, Kawana K, Hashimoto K, Kusumoto-Matsuo R, Plessy C, Miranda T, Nakamura H, Bonetti A, Oda K, Kukimoto I, Carninci P, Banks L, Osuga Y, Fujii T, Characterization of novel transcripts of human papillomavirus type 16 using CAGE technology, J Virol, 89: 2448-2452, 2015

  11. Kawana K, Adachi K, Kojima S, Taguchi A, Tomio K, Yamashita A, Nishida H, Nagasaka K, Arimoto T, Yokoyama T, Wada-Hiraike O, Oda K, Sewaki T, Osuga Y, Fujii T, Oral vaccination against HPV E7 for treatment of cervical intraepithelial neoplasia grade 3 (CIN3) elicits E7-specific mucosal immunity in the cervix of CIN3 patients, Vaccine, 32: 6233-6239, 2014

  12. Yamashita A, Kawana K, Tomio K, Taguchi A, Isobe Y, Iwamoto R, Masuda K, Furuya H, Nagamatsu T, Nagasaka K, Arimoto T, Oda K, Wada-Hiraike O, Yamashita T, Taketani Y, Kang JX, Kozuma S, Arai H, Arita M, Osuga Y, Fujii T, Increased tissue levels of omega-3 polyunsaturated fatty acids prevents pathological preterm birth, Sci Rep, 1;3: 3113, 2013

  13. Kojima S, Kawana K, Tomio K, Yamashita A, Taguchi A, Miura S, Adachi K, Nagamatsu T, Nagasaka K, Matsumoto Y, Arimoto T, Oda K, Wada-Hiraike O, Yano T, Taketani Y, Fujii T, Schust DJ, Kozuma S. The prevalence of cervical regulatory T cells in HPV-related cervical intraepithelial neoplasia (CIN) correlates inversely with spontaneous regression of CIN, Am J Reprod Immunol, 69: 134-141, 2013

  14. Kojima S, Kawana K, Fujii T, Yokoyama T, Miura S, Tomio K, Tomio A, Yamashita A, Adachi K, Sato H, Nagamatsu T, Schust DJ, Kozuma S, Taketani Y; Characterization of gut-derived intraepithelial lymphocyte (IEL) residing in human papillomavirus (HPV)-infected intraepithelial neoplastic lesions. Am J Reprod Immunol, 66: 435-443, 2011

  15. Miura S, Kawana K, Schust DJ, Fujii T, Yokoyama T, Iwasawa Y, Nagamatsu T, Adachi K, Tomio A, Tomio K, Kojima S, Yasugi T, Kozuma S, Taketani Y: CD1d, a sentinel molecule bridging innate and adaptive immunity, is downregulated by the human papillomavirus (HPV) E5 protein: a possible mechanism for immune evasion by HPV. J Virol, 84: 11614-11623, 2010

  16. Adachi K, Kawana K, Yokoyama T, Fujii T, Tomio A, Miura S, Tomio K, Kojima S, Oda K, Sewaki T, Yasugi T, Kozuma S, Taketani Y: Oral immunization with Lactobacillus casei vaccine expressing human papillomavirus (HPV) type 16 E7 is an effective strategy to induce mucosal cytotoxic lymphocyte against HPV16 E7. Vaccine, 28: 2810-2817, 2010

私たちの研究室では、子宮内膜症を中心とする婦人科疾患に対し、免疫学的な因子について探求し、その病態の解明また新たな治療法をめざして研究をしています。子宮内膜症は、生殖年齢女性の約10%に発症するとされ、痛みにより女性の生活のクオリティを低下させてしまう疾患です。子宮内膜症は痛みを呈するだけでなく、その一部は不妊の原因になったり、子宮内膜症をベースに悪性腫瘍が発生することもあります。また、近年では子宮内膜症の患者さんが不妊治療(ART)によって妊娠した場合、周産期出血のリスクが高くなることも分かってきました。子宮内膜症を極めることは、ある意味、生殖医学、婦人科腫瘍学、周産期医学といった婦人科のすべての領域にわたり勉強することとなります。

私たちはいつも、内膜症の患者さんと向き合って臨床をしています。臨床に携わっているからこそ、知りうること、疑問に思うことがあります。このような素朴な疑問から、新たな病態の発見につながることがたくさんあります。一生懸命患者さんを診て、一緒に悩んで考えると新たなものが見えてくるような気がします。

  1. 子宮内膜症におけるB-1 細胞の機能に関する研究

  2. 子宮内膜症におけるプロスタグランディン合成酵素に関する研究

  3. 子宮内膜症病巣におけるmPGES-1 mRNA 発現の解析

  4. 子宮内膜症病巣におけるToll like receptor (TLR4) mRNA の発現と mPGES-1 mRNA 発現との関係

  5. 子宮内膜症病巣におけるアンジオテンシンレセプターの発現の解析

これまで、以上の研究を少しずつですが継続的に行ってきました。アイデアはすべて、痛みに悩む患者さん、内膜症性嚢胞に感染をこしDIC、MOFにまでなった患者さん、GnRHアナログを使用しても病状がよくならない患者さん方を診させて頂いたことから考えついたものです。そして、一緒に悩み考えてくれた大学院生の真摯な努力と熱意の賜物です。彼ら大学院生は、国際学会で発表し海外の研究者達とdiscussionし、栄誉あるAwardを手土産として持って帰ってくれました。(2012年ASRI/ESRI international congress. Best Poster Award 林 忠佑先生、2014年ASRI meeting travel award 仲尾岳大先生)

 

 

研究は、人と同じことをしていたのでは、面白くないし、研究として意味がありません。子宮内膜症で、なんで血圧、電解質バランスに関する受容体の研究をするのか?と皆さん 疑問に思うと思います。でもアンジオテンシンレセプターは血圧調節だけではなくangiogenesis に関与しているのです。人が思いもつかないような発想するのは、一休さんの’とんち’に近いものがあります。世界でだれもやっていないことを探求していくことの醍醐味がありますし、新たなことが解って患者さんのハッピーにつながればこんな嬉しいことはありません。

最近では、子宮内膜症の病態がみな解ってきたように言われます。しかしそんなことはありません。内膜症はもっとenigmatic な病気です。炎症を中心に理解されていますが、どうも凝固系の変化が伴っているようです。更に凝固系の異常が免疫系に影響を及ぼし病態に変化を及ぼしていることが見え隠れしています。現在、炎症と凝固系 をキーワードに新たな研究の展開を若い大学院生とともに開始しています。どうぞご興味のある人がいらっしゃれば、一緒に新たな次元への挑戦をしていきましょう。

代表論文

  1. Chishima F, et al.: Peritoneal and peripheral B-1 cell population in patients with endometriosis. Journal of Obstetrics and Gynecology Research 26: 141-149 2000

  2. Chishima F, et al.: Increased expression of cyclooxygenase-2 in local lesions of endometriosis patients. American Journal of Reproductive Immunology. 2002 48(1):50-56.

  3. Chishima.F, et al.: .Expression of inducible microsomal prostaglandin E synthase in local lesions of endometriosis patients. American Journal of Reproductive Immunology. 2007 57(3):218-226.

  4. Hayashi C, et al.: Relationship between Toll-like receptor-4 and mPGES-1 gene expression in local lesions of endometriosis patients. American Journal of Reproductive Immunology. 2013 69(3):231-239

  5. Nakao. T, et al.: Expression of angiotensin II type 1(AT1) and type2 (AT2) receptors in endometriotic lesions. Gynecol Obstet Invest. 2017;82(3):294-302.

私の専⾨は腫瘍です。産婦⼈科医ががん患者さんに関わるにあたっては

  1. ⼥性特有の⼼⾝の問題(=⼥性医学)に寄り添うこと、

  2. がん集学的治療のハブとして機能すること、

 

この⼆つが重要と考え、研究・診療活動を展開しています。

 1.腫瘍内分泌学                         

  1⃣ 卵巣癌に対する各種ホルモンの影響

卵巣内では多くのホルモンや成⻑因⼦が分泌されていることから、さまざまなホルモンが卵巣癌の発⽣と進展に与える影響について研究しています。これまでに、卵巣から分泌されるプロラクチンが卵巣癌細胞のアポトーシスを抑制しプラチナ製剤による殺細胞作⽤を阻害することを報告しています 1)。

  2⃣ ⼦宮筋腫におけるエリスロポエチン(EPO)の役割

婦⼈科腫瘍で最も頻度の⾼い⼦宮筋腫は時に巨⼤に発育することがあります。巨⼤な⼦宮筋腫がEPO を分泌し多⾎症を呈するMyomatous erythrocytosis syndrome (MES)の病態に着⽬し、⼦宮筋腫におけるEPO 発現様式と作⽤について研究を⾏なっています。⼀部の⼦宮筋腫がEPO を⾼発現しており、EPO 発現量と筋腫径には正の相関関係がある事、EPO⾼発現筋腫ほど腫瘍内⾎管成熟が促進していることから腫瘍細胞由来のEPO が腫瘍内⾎管に作⽤して腫瘤の増⼤に寄与している可能性を報告しました 2)。

  3⃣ がんサバイバーに対するホルモン補充療法

若年のうちにがん治療のため⼈⼯閉経した場合、更年期症状で⽣活の質(QOL)が低下するだけでなく、⽼年期以降の健康に悪影響が出ることが知られています。がんサバイバーのQOL を⾼めるため、個々の患者さんとリスクとベネフィットにつき⼗分話し合った上で積極的にホルモン補充療法を検討しています。

 2.⼦宮頸がん予防と治療に関する研究活動            

  1⃣ ⼦宮頸がん・上⽪内病変(SIL)における細胞極性制御因⼦aPKC の役割

SIL の病理学的特性が扁平上⽪層分化の消失と細胞増殖の亢進であることに着⽬し、横浜市⽴⼤学医学部分⼦⽣物学教室と共同で細胞極性制御因⼦でありがん遺伝⼦でもあるatypical protein kinase C (aPKC)の⼦宮頸がん、SIL における発現様式およびその影響について研究しています。これまでにaPKC の発現量と細胞内局在が異常な軽度SIL は⾼度SILに進展しやすく、aPKC がSIL の予後予測のバイオマーカーになる可能性を⽰しました 3)。

  2⃣ 円錐切除術後の⼥性のQOL に関する研究

検診によってSIL を早期発⾒し、円錐切除術を⾏うことは⼦宮頸がん予防に有効な⼿段ですが、円錐切除後によって⼥性のQOL が変化するか否かについては詳細な調査がありません。そこで円錐切除後の⼥性にアンケートを⾏い、術後の⽣活の質について調査したところ、約30%の⼥性が⽉経出⾎期間の延⻑などにより「⼿術によって⾃分の体は変化してしまった」と感じていることがわかりました 4)。今後、多施設共同研究によって症状の詳細について解析するとともにこのような症状が出現しにくい術式の開発などを⾏う予定です。

  3⃣ がん教育に関する研究・活動

⽂部科学省学術研究助成基⾦助成⾦基盤研究「ピアエデュケーションによる⼦宮頸がん及びHPV 関連がん予防教育プログラムの開発」 (代表 ⽚⼭佳代⼦)の分担研究者として活動しています。さらに医学部だけでなく、保健体育学部や発展途上国の医療者などにもがん教育に関する講義を⾏なっています。

 3. がんサバイバーシップ、緩和⽀持療法に関する研究・診療活動  

がんの治療は、「治るか治らないか」の結果も重要ですが、同様に「どのように治るか」場合によっては「どのように終末を迎えるか」の過程も重要だと考えています。そこで下記のような研究・診療活動を⾏なっています。

  1. ⾼齢がん患者の治療に関する調査

  2. 抗がん剤⾎管外漏出の実態調査と対策に関する研究

  3. 患者会、ピアカウンセラーによるピアサポート⽀援

  4. 化学療法の⽀持療法、特にスタッフ・患者教育

​​代表論文

  1. Asai-Sato M, Nagashima Y, Miyagi E, Sato K, Ohta I, Vonderhaar BK, Hirahara F.Prolactin inhibits apoptosis of ovarian carcinoma cells induced by serum starvation or cisplatin treatment. Int J Cancer. 2005 Jul 1;115(4):539-44.

  2. Asano R, Asai-Sato M, Miyagi Y, Mizushima T, Koyama-Sato M, Nagashima Y, Taguri M,Sakakibara H, Hirahara F, Miyagi E. Aberrant expression of erythropoietin in uterine leiomyoma: implications in tumor growth. Am J Obstet Gynecol. 2015 Aug;213(2):199.e1-8.

  3. Mizushima T, Asai-Sato M, Akimoto K, Nagashima Y, Taguri M, Sasaki K, Nakaya MA,Asano R, Tokinaga A, Kiyono T, Hirahara F, Ohno S, Miyagi E. Aberrant Expression of the Cell Polarity Regulator aPKCλ/ι is Associated With Disease Progression in Cervical Intraepithelial Neoplasia (CIN): A Possible Marker for Predicting CIN Prognosis. Int J Gynecol Pathol. 2016 Mar;35(2):106-17.

  4. Furugori M, Asai-Sato M, Katayama K, Hirahara F, Miyagi E. Short- and long-term complications and the impact on quality of life after cervical conization by harmonic scalpel.J Obstet Gynaecol Res. 2017 Apr;43(4):749-757.

当研究室では、がんの⽀持療法の観点から、臨床と研究の両⽅の側⾯からのアプローチを⾏っています。

がん治療は⼿術や抗がん剤だけで成り⽴っているわけではありません。
患者さんの体の回復に寄り添い、がん治療の効果を最⼤限に引き出し、副作⽤を最⼩限に抑えて、患者さんの予後を改善することががん治療の真髄です。
当研究室では、がん治療を⽀える、⽀持療法の1つとして、リンパ浮腫と栄養療法の研究を⾏っています。
リンパ浮腫とは、リンパ液が何らかの原因により細胞間質に貯留したものです。⼿術によるリンパ節郭清術や、放射線治療、化学療法の後などに発⽣します。がんそのものが原因でリンパ浮腫を発症することもあります。私たちは、リンパ浮腫の分⼦病態学を究めることにより、リンパ浮腫の治療や予防⽅法につながると考えています。

蛋白質発現解析例

日本リンパ浮腫学会での発表

日本静脈経腸栄養学会での発表

また、がん治療には栄養療法を⽋かすことができません。栄養療法は、⾷べられなくなってしまった患者さんだけに⾏うものでも、消化管治療を⾏っている内科医師だけが⾏うものでもありません。私たち婦⼈科医も⼿術や抗がん剤、放射線治療と同時に栄養療法を始めることができます。
しかし、婦⼈科領域における栄養療法は、まだまだ臨床のデータが不⾜しています。私たちは、多くの⼿術症例の臨床検査データを解析することによって、術後の患者さんの回復状況を把握し、適切な栄養補助療法を⾏えるようにすることを⽬標としています。

研究内容                            

  1. リンパ浮腫の分⼦病態学

  2. 婦⼈科周術期および悪性腫瘍治療に関する栄養療法

  3. 最も臨床に近く、親しみやすい研究室です。患者さんに寄り添いながら、勉強してゆける分野です。興味のある⽅、ぜひ⼀緒に研究してゆきましょう!

研究内容                            

産婦人科の中でも周産期及び超音波診断に関して、主に臨床研究を行っています。
当院は総合周産期母子医療センターであり、多胎、重症の妊娠高血圧症候群や子宮内胎児発育不全、前置胎盤、胎児異常症例が多数集まります。さらに東京都母体救命搬送システム(スーパー母体救命)も担っており、産褥大量出血によるDIC・産道裂傷・羊水塞栓・妊婦の意識消失などの症例が東京都全体から多数集まってきます。臨床研究を行うには、最適な施設と言えます。具体的な研究内容は、以下の通りです。

  1. ウレアプラズマ感染と早産の関係

  2. 癒着胎盤の術前診断に関する検討

  3. 妊娠高血圧症候群の予後予測因子の検討

  4. 子宮内胎児発育不全(FGR)の予後予測因子の検討

  5. 胎児心臓スクリーニングに関する検討

  6. 経会陰超音波検査による分娩進行評価の有用性に関する検討

  7. 子宮頸部Elastograpy による妊娠中後期における子宮頸部硬度に関する検討

  8. 東京都母体救命搬送システム(スーパー母体救命)症例の周産期予後に関する検討 など

婦人科がん Precision medicine 研究室

研究内容

既存の癌治療薬は、癌に特徴的な部分に着目した治療法でした。例えば、抗癌剤は細胞増殖が盛んなものをターゲットにしています。また、分子標的治療薬は、遺伝子変異などの結果、増強される分子のシグナルを標的にしたものです。これらは癌において活性化されていますが、正常細胞にも存在します。従って副作用という問題が前面に出てきます。 
今まで私は癌の特異性に着目した研究を行ってきました。つまり「癌にだけ存在するもの」を見つけ出し、それに対する癌特異的な治療開発です。近年の分子生物学の進歩により、癌は同じ組織系においても分子レベルでは個々における多様性が多々ある事がわかってきました。つまり患者別に治療戦略を練る時代がもうすぐそこまで来ています(Precision medicineと呼ばれています)。Precision medicineを婦人科において実践すべく、新たな研究を行っています。
研究内容の着眼点として、私は臨床を進める中で出てきた疑問(クリニカルクエッション;CQ)から基礎研究(主に遺伝子、免疫領域)に幅を広げていく事を大切にしています。その際に「患者に還元できる基礎研究」をコンセプトとし、自分達の研究により患者を救うという強い信念の元に研究を進めています。以下に具体的な事例とともに研究の柱を記載します。

新規バイオマーカーの探索

CQ;子宮体部、卵巣のどちらにも同じ組織系の癌があるとき、それは重複癌なのか、それとも子宮癌の卵巣転移なのか?

Ans;それぞれの遺伝子の数の違い(コピー数)を見る事が大いなる参考になる

(Ikeda Y et al, Int J Gynecol Cancer. 2012 Jun;22(5))

解説;もし、重複癌でどちらもStage1なら術後の化学療法は必要ないかもしれません。一方、もし子宮体癌の卵巣転移であれば、Stage3aとなり、抗癌剤の適応になります。しかし形態学で判断困難な状況は少なくありません。上図の2例はどちらも子宮体部、卵巣に類内膜癌があった症例です。左の例は子宮体部と卵巣の癌部で遺伝子コピー数のパターンが異なります。一方、右の例はパターンが非常に似ており、同一起源の癌である事を示唆している事がわかります。

CQ;子宮体癌の再発を予見するバイオマーカーはないだろうか?

Ans;CDK4/6の蛋白活性を見る事がその参考となる

(Ikeda Y et al; Br J Cancer. 2015 Nov 17;113(10))

解説;

私共は子宮体癌の性質から、CDKという細胞周期に関わる分子に着目しました。CDK4/6は細胞が増殖する際に重要な役割を担う事が知られています。その蛋白の活性を調べ、一定の基準値を設けると、子宮体癌において有意な差をもって再発群を見分ける事が出来ました。
このように、バイオマーカーの発見は患者別のリスク評価や診断方法の確立につながる可能性があります。当研究室では現在も新規バイオマーカーの開発を行っております。

新規分子標的治療薬の婦人科への応用

CQ;肺癌を移植したマウスの実験で、6匹中5匹で腫瘍が消失した’TOPK 阻害薬’を婦人科に応用できないだろうか?

(Matsuo Y et al; Sci Transl Med. 2014 Oct 22;6(259))

 

Ans;卵巣癌において非常に魅力的な薬剤である事が確認された。

(図1)オンラインデータベースを用いた正常卵巣と卵巣癌でのTOPK遺伝子の発現の違い

(Ikeda Y et al; Clin Cancer Res. 2016 Dec 15)

(図2)TOPKの発現と患者予後の関係

(Ikeda Y et al; Clin Cancer Res. 2016 Dec 15)

(図3)TOPK阻害薬を卵巣癌のあるマウスに与えた結果

(Ikeda Y et al; Clin Cancer Res. 2016 Dec 15)

 解説; 

TOPKは東京大学医科学研究所の中村祐輔教授(現シカゴ大学教授)研究室にて同定された、正常組織では発現をほとんど認めず、癌にのみ発現している蛋白です。その蛋白の阻害剤を用い、埼玉医科大学国際医療センター婦人科腫瘍科の長谷川幸清教授およびOncotherapy science社との共同研究下にて卵巣癌に対する効果を評価しました。まず公にされているデータベースを用いた解析で正常卵巣と比べて卵巣癌でTOPKが優位に高く発現している事を確認しました(図1)。続いて、卵巣癌患者において、TOPKが発現していると有意に予後が悪くなる事を確認しました(図2)。卵巣癌担癌マウスにおいては、TOPK阻害薬を用いる事で有意に予後の改善を認めました(図3)。
以上より、この新規薬剤が卵巣癌において非常に有望である事が判明しております。今後の臨床応用に向けて更なる知見を積み重ねていく予定です。

新規免疫療法の開発

CQ;免疫療法は婦人科に効くか?新しい免疫療法は開発できないだろうか?

Ans;婦人科は免疫治療のターゲットとなります。私達はこの分野における新たな治療法の開発を行っていきます。

(図1)データベースを用いた子宮体癌にける免疫関連の遺伝子の発現と予後の関係

(Ikeda Y et al; Oncol Rep. 2017 May;37(5))

 

(図1)がん抗原の種類

 

 

 

(図2)変異抗原特異的なT細胞の作製

 

 

 

 

 

 

 

 

(Ikeda Y* et al; Oncotarget. 2018 Jan 13)
*Equally contributed with Kato T and Matsuda T

解説;

近年着目されている免疫療法の開発に、私達はいち早く取り組んでいます。子宮体癌において、免疫関連の遺伝子の発現は予後と相関する事がわかっています(図1)。当方からの報告ではありませんが、子宮頸癌、卵巣癌においても同様の事が指摘されています。 癌から出てくるがん抗原が免疫細胞により認識される事で、免疫が活性化されるのですが、近年様々ながん抗原がある事がわかってきました(図2)。私はシカゴ大学の中村祐輔教授の元で変異抗原特異的な免疫細胞の誘導を試み、その手法を確立してきました(図3)。現在この手法を元とし、新たな免疫治療の開発に現在取り組んでおります。

上記のように、上記3つの柱を中心として、自由な発想から生まれる新しい研究を行っています。これらは私共が行っている研究の一部です。基本コンセプトとして「患者のための研究」という事が欠落していなければ、新しい事も随時取り入れて研究を進めていくつもりです。婦人科臨床基礎研究に興味のある方は是非ご連絡下さい。

代表論文

  1. keda Y, et al: Clinical significance of T cell clonality and expression levels of immune-related genes in endometrial cancer. Oncol Rep 2017;37:2603-2610.

  2. Kato T*, Matsuda T*, Ikeda Y* , et al: Effective screening of T cells recognizing neoantigens and construction of T-cell receptor-engineered T cells. Oncotarget 2018;9:11009-11019. * Equally contributed

  3. Ikeda Y, et al: T-LAK Cell-Originated Protein Kinase (TOPK) as a Prognostic Factor and a Potential Therapeutic Target in Ovarian Cancer. Clin Cancer Res. 2016 Dec 15;22(24):6110-6117

  4. Ikeda Y, et al: Germline PARP4 mutations in patients with primary thyroid and breast cancers. Endocr Relat Cancer. 2016 Mar;23(3):171-9

  5. Ikeda Y, et al: Prognostic importance of CDK4/6-specific activity as a predictive marker for recurrence in patients with endometrial cancer, with or without adjuvant chemotherapy. Br J Cancer 2015;113:1477-1483.

  6. Ikeda Y, et al: Cyclin D1 harboring the T286I mutation promotes oncogenic activation in endometrial cancer. Oncol Rep 2013;30:584-588.

  7. Ikeda Y, et al: The Risk of Ovarian Malignancy Algorithm (ROMA) as a Predictive Marker of Peritoneal Dissemination in Epithelial Ovarian Cancer Patients. Oncol Res Treat 2015;38:276-281.

  8. Ikeda Y, et al: Primary vaginal calculus in a middle-aged woman with mental and physical disabilities. Int Urogynecol J 2013;24:1229-1231.

  9. Ikeda Y, et al: Weekly administration of bevacizumab, gemcitabine, and oxaliplatin in patients with recurrent and refractory ovarian cancer: a preliminary result of 19 cases. Int J Gynecol Cancer 2013;23:355-360.

  10. Ikeda Y, et al: Genome-wide single nucleotide polymorphism arrays as a diagnostic tool in patients with synchronous endometrial and ovarian cancer. Int J Gynecol Cancer 2012;22:725-731.

  11. Ikeda Y, et al: A case of postpartum multiple vertebral fractures in a patient with osteogeneis imperfecta. Clinical and Experimental Obstetrics & Gynecology 2018;in press.

  12. Ikeda Y, Yasuda M, Kato T, Yano Y, Kurosaki A, Hasegawa K: Synchronous mucinous metaplasia and neoplasia of the female genital tract with external urethral meatus neoplasm: A case report. Gynecol Oncol Rep 2015;12:27-30.

  13. Ikeda Y, et al: Non-diethylstilbestrol exposed vaginal clear cell adenocarcinoma has a common molecular profile with ovarian clear cell adenocarcinoma: A case report. Gynecol Oncol Rep 2014;10:49-52.

  14. Ikeda Y, et al: Practice patterns of adjuvant therapy for intermediate/high recurrence risk cervical cancer patients in Japan. J Gynecol Oncol 2016;27:e29.